ようやく梅雨が明けた
2016年7月、梅雨明けが遅く、週末は不順な天気がつづいた。8月になり、ようやく夏らしい天気が訪れ、さあ夏山だ、ということで今年は1泊で鹿島槍を目指した。昨年、剣岳を登り、立山三山を歩いたとき、後立山連峰の山々を眺め、いつか鹿島槍に登ろうと心に誓った。念願の山である。
出発
8月5日の夜、扇沢町営駐車場に到着。昨年、剱を目指したときに利用した駐車場だ。満点の星空を見ながら車中でビールを飲み、そのまま眠る。翌朝目を覚ますといつのまにか駐車場は満車状態。早くも多くの人が出発の準備を始めている。針ノ木を目指すという隣の人と会話をしながら私もザックに食料を詰め込み、さあ出発だ。見上げると爺ガ岳の雄姿が。昨年、剱から下りてこの扇沢に戻ったとき見上げたあの爺ガ岳だ。
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昨年、剱からの帰り、扇沢で登頂を誓った爺ガ岳。 |
登山開始
駐車場から徒歩約10分で柏原新道入り口に。時刻は6時。すでに登山届け受付が設置され、その場で計画書を提出。次から次へと登山者が入山する。ここを早朝に入山する登山者の行く先は様々だ。とりあえず種池山荘までは誰も一緒だが、そこから先は冷池山荘を目指す人、あるいは針ノ木方面を目指す人、冷池から先鹿島槍を超えキレット小屋まで行く人。歩くペースを見るとだいたいどこを目指しているのか想像できる。私はほぼ標準ペースだ。
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柏原新道登山口 |
柏原新道
柏原新道はよく整備された登山道だ。左に沢音を聞きながら登る。最初のポイントである「ケルン」までは急登の連続だ。約1時間で「ケルン」に到着。木々の間から先の尾根を見上げると赤い屋根の種池山荘が尾根に輝いているのが見える。まだまだ行程は長い。とりあえず一休みだ。
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柏原新道はよく整備されている |
やがて急登も一段落して、なだらかな登りが続く。だが水場もない単調な登山道だ。常に左下を流れる沢の向こうに針ノ木から続く尾根を見ながら登る。その尾根の高さを見て自分の位置をだいたい判断できる。歩を進めるに従い、尾根を見上げる高さも低くなり、木々もダケカンバ林へと変わる。もうすぐ森林限界だ。
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森林限界は近い |
やがて「鉄砲坂」という最後の急登にさしかかる。これを登ると種池山荘に達する。さあもうひと息だ。やがて登山道は森林限界を超え、先の稜線の向こうに種池山荘の赤い屋根が現れた。到着だ。時刻は9時半。ほぼ標準タイムだ。
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鉄砲坂を登ると種池山荘が見えた |
種池山荘で
山荘の前にはベンチがいくつか置かれ、休憩場所となっている。下りてきた人、登る人、皆ここで休憩をとる。今日は晴天に恵まれ、針の木方面、爺ヶ岳方面、さらには立山連山が一望できる。さあ、この先は天上の世界だ。昨年、立山から見たあの鹿島槍に向っていくのだ。はやる気をおさえ休憩。ガイド地図によるとここから今日の宿泊小屋の冷池山荘まで2時間。しかも登りはあの爺ガ岳までだ。
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山荘前は沢山のチングルマ |
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爺ガ岳への登りから種池山荘を振り返る |
爺ガ岳
種池山荘から爺ガ岳までは単調なガレ場の登り。コースタイム1時間。やがて左手に冷池山荘と鹿島槍が見えてきた。冷池山荘の向こうに大きくそびえたっている。しかし残念だが薄い雲が鹿島槍を包み始めている。
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鹿島槍は雲に覆われている |
爺ヶ岳までスローペースでゆっくり登るつもりだったが、急に脚が重くなってきた。全身を炎天下に晒してるためだろうか。なだらかな傾斜なのに息が続かなくなってきた。ゆっくりどころか、汗まみれになりながら1歩1歩と重い足を運ぶ。南嶺山頂への分岐点に達したときはすでにヘトヘト。山頂を踏むか迷うも自然に脚は山頂方面に。山頂でランチをかねた休憩をとることにする。残念だが鹿島槍はもう完全に雲に包まれ姿を消している。ここまでの疲労感と鹿島槍の雲のため、本日中の鹿島槍アタックへの思いは完全に捨ててしまった。ふっきれた気分でゆっくりと剱を見ながら菓子パンを食べ始めた。
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爺ガ岳中嶺山頂にて |
雷鳥と出遭う
爺ヶ岳には南嶺、中嶺、北嶺の三つの頂上がある。南嶺を踏んだなら、中嶺もいかなくては。どちらも本道から少し外れる。なぜか南嶺で休んだ後、ますます疲れがでてきた。南嶺から30分ほどの移動だが時間はあるので中嶺でも大休止とする。中嶺からは種池から冷池までのコースが一望だ。さきほどピークを踏んだ南嶺のうえに小さく人々が見える。20分ほど休んだ後、重い腰をあげ本道に下りて冷池をめざす。しばらくは尾根直下の水平道。ハイマツの中を歩く。するとそのハイマツから雷鳥が現れた。母鳥と2羽の子供たちだ。母鳥がグワグワと鳴きながら子を導いている。こんなに近く(殆ど足元)に雷鳥をみるのははじめてた。声をかけたせいか、雷鳥親子たちはその場にとどまっている。雷鳥親子との出会いに感動。これだけで今回の山行の成果があったというものだ。
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雷鳥の母鳥 |
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雷鳥の子供 |
冷池山荘へ
さあ、気分よく冷池へ。だが、脚は相変わらず重い。何故なんだろう。思い返せば爺ガ岳手前の登りからから急に脚が重くなってきた。山頂でゆっくりと休んだはずなのに。なだらかな下りを重力に身をまかせて下り続ける。風通しのいい稜線にでると冷たい風が心地よい。思わず歩を止めて身体を冷やす。多分、自分は軽い熱中症になっているな。あの炎天下での爺ガ岳への登りがいけなかったか。原因は水分不足?など思いながらふらつく足取りで冷池手前の分岐点、冷乗越にようやく達する。
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冷池乗越しにて。冷池山荘はもう少しだ。 |
冷池山荘までほぼ10分のところだ。あとは山荘に登るだけ。最後の力を振り絞って、冷池山荘に到着したのが、2時近かった。今日の後半は随分と時間を要したことになる。
山荘
冷池山荘では迎えてくれる若いスタッフたちの元気な声が疲れた体に心地よく響く。聞くと今日は予約でいっぱいとのこと。部屋は完全に男女別となっている。スタッフに寝床まで案内され、いろいろな注意事項を聞く。室内はいっさいの飲食禁止とか。満員なので、1枚の敷布団に2人とのこと。しょうがない。この時間、まだ到着者は20%程度か。明日の鹿島槍へのアタック準備をして、横になる。
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満員の山荘 |
6時からの夕食後、山荘から20分ほど上にあるキャンプ場まで脚を運び日没を見る。みると剱方面に日が沈もうとしている。やがて日がしずみ剱の稜線が赤い空に浮かび上がる。剣に昨年登ったと思うと感慨も格別だ。皆無言で日没を眺める。いろいろな思いが帰来しているのだろう。
鹿島槍へ
早朝3時半起床。さあ、鹿島槍だ。主要な荷は山荘にデポしヘッデンを点灯させ、出発。すでに遠く前方にヘッデンの明かりが動いている。まずは手前の布引山まで。左前前方の山々が赤く輝き始めた。日の出だ。足元も徐々に明るくなってくる。残念だが登山道は尾根から微妙に隠れたところを通っているので日の出を見ることはできない。やがて布引山に到着したときは日は昇り、あたりは朝日に赤く照らされている。鹿島槍も輝いている。さあ、アタックだ。登山道はやがて小さな九十九折となり、山頂に続く。左に見える立山連山に励まされながら山頂に達した。
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布引山より鹿島槍 |
山頂で
朝の鹿島槍。北アルプスの山々を一望だ。私でもいくつかのピークは確認できる。槍、燕、大天井、剱、薬師、立山、唐松、五龍、白馬、、、、。まるで地図を広げたようだ。五龍方面へは険しいキレットが大きく落ち込んでいる。いつかこのキレットを走破したい。20分ほど朝食をかねた休憩をとり、さあ山荘に戻るとするか。荷も軽いので足取りも軽い。帰りは花々の撮影をしながら、戻るとしよう。
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五竜、白馬方面。この先は難所といわれている八峰キレットが待っている。 |
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槍ヶ岳方面。手前尾根が登ってきた尾根。 |
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山頂直下にて |
帰路
冷池山荘に戻ったのが8時。しばし休憩。このコースは水場が全くない。故に水は山荘で買わなくてはいけない。1リットル150円。宿泊者には1リットルサービスとのことだが、足りない。とりあえずここから種池山荘までの分として1リットル補給して、さあ爺ヶ岳へ登り返しだ。今日も炎天下の歩きは避けられない。山荘にデポしておいた荷をザックに詰めなおして出発。
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冷池山荘より爺ガ岳、これを登り返さなくてはいけない。気が重い。 |
なだらかな登りとはいえ、日差しが応える。昨日からの疲れがいっきにでてきたみたい。いきなりペースダウンだ。このコースはかなり先まで見通せるので、少しずつでも爺ヶ岳が近づくのが慰めだ。とりあえず爺ヶ岳ピークまで、自分を励ましながら歩く。一歩一歩と脚を前にだし、小刻みに休み、ようやくピークに達した。さあ、あとは種池山荘までなだらかな下り。汗が全身を濡らす。ストックを頼りに種池山荘に到着したのが11時。ベンチに座り冷たいコーラを飲み干す。60年超の人生で飲んだ最も美味しいコーラだ。しばし休憩の後、柏原新道を下り、ヘトヘトになって登山口に達したのが15時であった。今日だけで標高差2000の下り。今回の山行は炎天下で厳しい歩きだった。水分補給、栄養補給、休憩の取り方、など反省点の多い山行であった。
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不明の花 |
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トウヤクリンドウ |
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トリカブト |
後日談
8月のお盆は例年東北の山に登る。今年も4回目の岩手山を登った。炎天下でほぼ鹿島槍と同じような条件での登山だったが全く疲れることはなかった。(標高差1500をピストン)。鹿島槍の反省をいかし最初から水分をどんどん補給したのがよかったか。とにかく山は怖い。ちょっとした不調で大ブレーキになってしまう。体調をしっかりと整えて山に登るべし。
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岩手山、溶岩瓦礫の急登 |
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