原生林を遡行して焼石岳へ

尿前沢渡渉点にて

直登コースに挑戦

私が東北の焼石岳に通いはじめてもう15年ほどにもなろうか。最初は渓流釣りを楽しんだ。キノコ採りにも通った。もちろん山頂にも何回か登った。これまでいろいろなコースで山頂にアクセスしたが、ただ原生林や沢を遡行して金名水に至る「直登コース」だけは未踏だった。ガイドブックやネット情報で「要案内人」とか「一人で行くのはやめること」とあるからだ。地図でもルートは目立たない点線となっている。でも原生林を抜け、沢を遡行して登山道に合流するこのコースは一度歩いてみたいと思っていた。ネット情報もよく見ると一人でも行けそうだ。そこで夏休みを利用して、避難小屋泊まりで行くことにした。
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8月12日朝8時、中沼コース登山道駐車場を出発。まず登山届けを出す。殆どの届けはここから山頂とのピストン往復だ。「直登コース」に入った届けは8月4日以降はない。心細くなる。が、覚悟をきめ熊よけの笛を思い切り鳴らし、コースに足を踏み出した。まずは昼までにメジャーコースにある金名水小屋まで達することだ。

出発

最初はブナ原生林のなかをひたすら歩く。踏み跡も明瞭だ。ところどころに目印の赤テープもある。
赤テープや矢印を頼りに歩く

やがて尿前沢の音が聞こえてくる。釣りをしていた頃にここまでは歩いたことがある。最初のポイントはこの沢を渡ること。沢は踏み跡が識別できないので対岸のルートを探す。50メートルほど上流に目印を発見。あそこが渡渉点だ。渡渉点までいくと、そこには簡易な丸木橋が渡されている。こんな危なっかしい丸木を歩くよりそのまま沢に足を入れて渡ったほうがいい。ジャブジャブと足を入れて渡渉。そこで一休み。
尿前沢が見えた

.原生林の奥へ

さあ、これからが本番だ。ここまでは釣り人たちも来るだろうが、この先を歩くのは登山者だけだ。道の識別が心配だ。今回はタブレットにルートを読み込ませ、GPSで現在地を識別できるようにした。ザックからタブレットを出して現在地が正しく表示されていることを確認。よし、行くぞ。
渡渉点からはいきなり急勾配の登りだ。だがルートの踏み跡は明瞭。どんどんと標高をあげ、やがてルートはゆるいアップダウンとなる。面白いことに窪地に下りると冷たい空気が身体を包んでくれる。冷気が低いところに溜まっているのだ。天然のシャワーだ。そんなところでは足をとめ、冷気でリフレッシュタイム。これも原生林のなせる現象か。
トラロープ

間違えやすいところではハデに赤テープが張られている

頭の中にはネットで収集したルート情報が入っている。いろいろなポイントでネット情報との整合性を確かめる。ああ、ここが直角に曲るところか、ここがあのガレ場か、など頭をなぞりながら歩く。やがてどのネット情報にもでている道標に達した。木にブリキ版を貼り付けた簡易な道標だ。ここまで来て、踏破への自信がでてきた。この先、向こうに見える尾根辺りに目指す金名水小屋があるのだろう。さあ、もうひと頑張りだ。
有名なブリキの標識

小休止のあと、金名水小屋を目指して歩き出す。ルートはやがて天竺沢に下り、テープを頼りに遡行する。沢はところどころで二股に分かれているが、テープがあるので助かる。
ひたすら赤テープを頼りに

やがて沢の水もなくなり、涸れ沢となり、そのまま遡行し金名水小屋に達する。11時すぎ、ほぼコースタイム通りだ。結局、ここまで誰とも会わなかった。

金名水小屋から焼石岳

そびえ立つ金名水避難小屋、床の高さから雪深さを感じる

金名水小屋は尾根道にそびえ立っている。どうみても無人だ。ここからはメジャーな登山道、「夏油コース」だ。尾根道だから迷うことは無いだろう。水を補給して、さあ焼石岳に向って出発。登山道はほぼ背丈ほどの低木が続く尾根道。だんだんに高度を上げると一面の草原となる。前後を見渡すと、連なる尾根には登山者の姿は全く見えない。すばらしい天上の草原を独り占めだ。嬉しさと寂しさが混在する。やがて六沢岳を越え、東焼石岳に達する。
六沢山方面。誰も見えない、私一人だけだ。


東焼石岳より六沢山を振り返る。一番奥に見えるのは早池峰山。

東焼石岳の山頂はノッペラだ

焼石岳山頂

ここまでくれば目の前に焼石岳が見える。もう安心だ。草原を焼石岳に向って進むと、最もメジャーな中沼コースとの合流ポイント、姥平だ。ここにザックをデポして焼石岳に空身で登る。山頂に達したのは15時。ここではじめて人と出会う。若い男女の二人連れ。山頂は靄に包まれて展望はない。この山頂に立つのはこれで何回目だろうか。展望の代りにこれまでの思い出がよぎる。感慨深いものがある。
焼石岳山頂、モヤのため展望はない

この後、1時間ほどの下りで今日の目的地、銀名水小屋に達する。これまでいろいろな湧水を飲んだが、この銀名水に勝るものは無い。手を入れると刺すように冷たい。ザックから缶ビールを取り出し、冷やす。これで今日の山行も終わりだ。小屋には東京から来たという中年登山者が一人。盆休みに東北の山めぐりをするのだという。語り合ううちに夜が更ける。それぞれの食事を済まし、静寂に包まれ、星空の下で寝る。
銀名水避難小屋、目立つように赤色に塗られている
岩に彫られた「銀名水」

今年5月の銀名水で

8月の銀名水、ほぼ上の写真と同じアングルで

今回は柄でもないが花の写真を。名前を調べるのに苦労した。山小屋で同宿した彼に教わったキンポウゲとキンバイの識別方法は勉強になった。他に名が不明のものはアップしなかった。焼石岳はさすが花の百名山だけある。いつか盛りの6月に訪れてみたい。
タチギボウシ
タテヤマウツボグサ
ハクサンシャジン

ハクサンイチゲ
ハクサンフウロ
ミヤマキンバイ
ミヤマキンポウゲ


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